成田市公津の杜にある「ギャラリーのうさぎ」で、昭和の文学ファン必見の展示会が開催されています。
『現代人気作家がすすめる私自身の一冊』。
約90人の作家たちが、自らの作品を自薦した直筆原稿が、ところせましと展示されています。
企画したのはギャラリーを主宰する小林一三さんです。
【30年前の秀逸企画ふたたび!】
小林さんは、書籍出版の仕事に携わっていた約30年前に、この企画を立案しました。
「10人いて10人が賛成することは面白くない。9人が反対すると意欲がわく」という独自の企画哲学を貫き、当時の流行作家約130人に原稿を依頼したところ、約90人から返信がありました。
中でも驚いたのは、自ら「遅筆堂」と名乗るほど原稿が遅い井上ひさしさんから、依頼から3日後、いちばん早く返信が来たこと。
自薦作品は『おれたちと大砲』。
「おもしろいことは、作者が保証いたします。つまらなかったら、版元になりかわって、作者が買い戻します。(中略)この小説は、正直に申しますと、思っていたほどは売れませんでした。それがいまでも不思議で仕方ありません」。
小林さんは「信じられませんでした。よほど言いたかったんでしょうか」と微笑みます。
原稿は1冊の本にまとめられましたが、今は在庫がありません。
作家たちの直筆原稿は、平成元年に東京ブックフェアで5日間だけ展示された後、小林さんが散逸しないように個人保管していました。
【きっかけは『トットてれび』】
今回、展示を検討していたら、NHKで『トットてれび』が始まりました。
原作は、黒柳徹子さんの自伝『トットチャンネル』。
そして、小林さんの手元にあった黒柳さんの自薦作品が『トットチャンネル』だったのです。
「私の青春、そしてテレビ史を書いておきたかったけど、もう一つ、テレビという新しい仕事の中で、志をなかばにして死んでいった仲間への、レクイエムでもあるのです」と、自薦理由が書かれています。
ドラマ化を知った小林さん、「成田のみなさんに、もういちど見ていただこう」と今展を開催しました。
【作家の本音があふれ出る直筆原稿】
原稿の中には、作品が評価されなかったことへの不満や、信条、人気の探偵小説シリーズの執筆上の掟など、作家の驚くほど素直な本音が綴られています。
また、展示されている14人の芥川賞作家、22人の直木賞作家の自薦作が、受賞作である作家はわずか5人、芥川賞にいたっては1人もいないという興味深い傾向も読み取れます。
個人的に、いちばん読書に時間を割けた時代ドンピシャな作家ばかりで(年がバレてしまうけど・・・)、ロングセラーとして文庫で読み継がれている作品も多く、デジタル世代のみなさまにも、ぜひ読んでいただきたい。
展示作家と自薦作品♪ 豪華~!
【相田みつを&星野富弘との交流】
30年前の企画展後、 相田みつをさん、星野富弘さん、水木しげるさんからも原稿をいただきました。
相田みつを氏と小林さんは、栃木県足利市の同郷。
小林さんにとって相田さんは高校(旧制中学)の大先輩にあたります。
相田さんが詩集『にんげんだもの』を出版した直後、何か企画できないかと、小林さんが相田さんに会いに行って以来、交流は続き、2年前まで相田みつを美術館にも在駐していました。
星野さんとの出逢いは、当時、全国的に広く詩画を紹介したいと、星野さんの熱狂的なファンから依頼があったこと。
小林さんは、星野富弘展を会社の会議室で開催。
東京開催の1日5000人の来場記録は、いまだに破られていないといいます。
その後も、相田×星野、相田×金子みすゞコラボ作品集などを企画しました。
【文豪たちの完全複製手稿も展示】
ギャラリーには、夏目漱石、宮沢賢治などの完全複製原稿も展示されています。
宮沢賢治の『雨ニモマケズ』は、手帳に書き留められたものだったんですね~。
【小林さんから語られるエピソードもご馳走♪】
小林さんから語られる作家たちのエピソードの数々も、文学ファンとしてはたまりません!
ギャラリーの場所は10数年前まで、野うさぎがいました。
そのことから命名したという「ギャラリーのうさぎ」。
これからも小林さんならではの企画展が開催されます♪
第2弾は、お子さんのために、お母さんに絶対に見てほしいという「子どもの絵本作家・童話作家がすすめる私自身の一冊」。
やなせたかしさんの「アンパンマン」など、60名のメッセージが展示されます。
7月23日から開催予定です♪
まずは第1弾に、ぜひ、足をお運びください。
▽開催中~7月18日(月・祝)の木・金・土・日・祝日のみ開館 10:30~16:00
▽ギャラリーのうさぎ(成田市公津の杜3―18―2)
▽入館料200円(小学生以下無料)
▽問:℡090(1509)2269(小林さん)